少子高齢化に伴い、お墓を受け継ぐ人がおらず、遠方に住む親族の負担が大きくなっています。また、都心部では墓地が不足しており、お墓を建てるのは高額になってしまうなどの理由でお墓を持たない人が増えてきました。
こうした事情などから、注目を集めているのが海洋散骨です。
日本海洋散骨協会によると、海洋散骨の認知度は93%と高く、多くの人は言葉自体を聞いたことがあると答えていますが、海洋散骨の費用や流れなどはあまり知られていないのが実情です。
よく分からないまま海洋散骨を実施してしまえば、後悔するかもしれません。海洋散骨の基本的な知識を始め、メリット・デメリットなどを詳しく解説します。
海洋散骨とは
自然葬の種類 | 内容 |
---|---|
海洋散骨(海洋葬) | 遺骨を海に撒く |
山林散骨(山間散骨) | 遺骨を山や森に撒く |
空中散骨(空中葬) | 空中から海に向けて遺骨を撒く |
樹木葬 | 墓石を建てず、樹木や草木を墓標にして遺骨を埋葬する |
日本では大正時代より、火葬後に埋葬し、お墓を建てて供養を行うのが一般的でした。
しかし、近年は様々な事情によりお墓を建てない人が増えており、遺骨を自然に還す自然葬が選ばれています。
自然葬の中でも遺骨を粉末状にしたものを撒く散骨は、散骨する場所によって名称に違いがあるものの、従来の葬送に近しい形の樹木葬とは違い、お墓を建てない新しい形式という共通点があります。
海洋散骨の費用・平均相場
種類 | 費用・平均相場 |
---|---|
委託散骨 | 5~8万円 |
個人散骨 | 20~50万円 |
合同散骨 | 8~15万円 |
業者によって、プランの内容は異なります。特に費用の中に粉骨作業が含まれないこともあります。必ず確認してください。
また、費用・平均相場はあくまでも一般的なものとして参考にしてください。
委託散骨
遺族の同行の有無 | 日時の指定 |
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できない | できない |
委託散骨は代行散骨や代理散骨とも呼ばれ、遺族に代わって業者のスタッフが散骨を行います。
船に乗れない人や現地に行くのが難しいなど、事情によって遺族が同行できない場合に申し込みができますが、その場に居合わせないため「本当に散骨されたのか?」と不安を感じるかもしれません。こうした遺族の心情を解消すべく、業者の多くでは葬送の模様を写真に収め、散骨証明書と併せて報告しています。
小規模葬儀(家族葬)の最大手「小さなお葬式」には委託海洋散骨のプラン設定があり、総額55,000円の料金には海洋散骨に必要な以下のサービスが含まれており、追加料金はかかりません。
- 散骨代行
- 粉骨作業
- 写真撮影
- 献花・献酒
- 骨壺の処分
- 散骨証明書
なお、無料相談の電話番号0120-597-129は、海洋散骨・自宅供養の専門番号となります。
個人散骨
遺族の同行の有無 | 日時の指定 |
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できる | できる |
個人散骨はクルーズ船をチャーターし、家族や友人など親しい人たちだけで故人を見送れます。
船内は家族や友人とスタッフのみのため、故人の写真やゆかりの品物の持ち込みが可能。心ゆくまでゆっくりとお別れがしたい場合におすすめです。
乗船人数や乗船時間(散骨ポイントによって異なる)、オプションの有無などで費用に幅があります。
合同散骨
遺族の同行の有無 | 日時の指定 |
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できる | できない |
合同散骨は複数の遺族でクルーズ船のチャーター代を分担するため、個人散骨よりも予算を抑えられます。
散骨のポイントが遺族によって別の場所を設定しているプランであれば、個人散骨とほぼ同じ形で個人を見送ることができますが、同場所での散骨となるケースもあるので注意してください。
海洋散骨はよくない?違法にあたるのか
仏教(※)の輪廻転生の思想などから、日本では長く「人は死ぬと土に還る」と考えられてきました。そのため、土葬や火葬は歴史が古く、現在も墓地、埋葬等に関する法律によりルールがしっかりと定められています。
(※)この場合の仏教は発祥のインドではなく、儒教の教えが色濃く反映された中国式の仏教です。インドでは遺体をガンジス川に流す水葬が行われますが、儒教では土葬が一般的でした。
実は日本では、古くから散骨も行われていました。しかし、土葬や火葬のように定着しないまま今に至っているため法律に明文規定されておらず、曖昧なグレーゾーンにあります。
海洋散骨は違法ではない
海洋散骨は、違法ではありません。ただし、合法でもありません。
散骨についての法律がないのが現状で、取り締まることができないのです。
散骨が刑法190条(死体損壊等罪)に該当するという見方もありましたが、これに対し法務省が非公式ながら「問題がない」との見解を示したため、現在は黙認されている状態となっています。
なお、散骨についての法律はありませんが、だからといってどこでも許可されている訳ではありません。各自治体や市町村などで、条例を制定している場合があるので注意してください。
粉骨しないと死体遺棄になる可能性がある
遺骨をそのまま撒くことは、刑法190条(死体損壊等罪)や墓地、埋葬等に関する法律により禁止されており、散骨を行う場合には骨と分からないように粉末状にする(粉骨といいます)必要があります。
粉骨を行わずに散骨をすると、死体遺棄事件として立件される恐れがあります。
海洋散骨のデメリット
近年の社会状況などにより、海洋散骨に大きなメリットを感じている人が増えています。
しかし、いくらメリットが多くても、それらを上回るデメリットが一つでもあれば、海洋散骨は避けたほうがよいでしょう。
お参りに行けない
お墓参りでは、先祖や故人の冥福を祈り、感謝を伝えます。多くの人はお墓参りは供養のために行うものと認識していますが、実はお墓参りをすることで先祖や故人との繋がりを感じ、癒しや安らぎを得ている人も少なくありません。
海洋散骨では、お墓は建てません。お墓参りを心の拠り所にしていた人にとっては、大切な場所を失ってしまう可能性があります。
散骨すると戻らない
海に散骨するため、後から「やっぱり手元に残しておきたい」と思っても、どうすることもできません。
また、遺骨を粉々にすることに対しても、後々に「申し訳ないことをした」と感じる人もいます。
海洋散骨のメリット
海洋散骨を行えば、海を見ればいつでも故人を思い出して偲べます。
四方を海で囲まれた日本では、より身近に感じられるかもしれません。
このほかに、海洋散骨には次のようなメリットがあります。
海を愛する人には魅力的
- 生前、海が好きだった
- 海に関係する仕事をしていた
- 釣りやレジャーでよく海を訪れていた
こうした理由から、土に還るという仏教的な思想とは別に、生命の源である海に還ることを望む人は多いです。
故人の希望に沿った葬送ができる
昭和の名俳優である石原裕次郎さんが亡くなったとき、兄の石原慎太郎さんは「海を愛していた弟を、海に還してあげたい」と海洋散骨を計画したものの、当時(1987年)は世論から賛同が得られず、結果的に断念した経緯がありました。
しかし、その後に法務省が示した見解などから、「葬送として節度を持って行われる散骨については法律に違法しない」との認知が広がり、裕次郎さんの遺骨の一部が相模湾に散骨されました。また、石原慎太郎さんの遺骨も葉山沖で海洋散骨されています。
海をこよなく愛し、自分が死んだら海に還してほしいと願った故人の想いを叶えられることで、遺族の心にも安らぎが得られることでしょう。
お墓を建てなくて良い
同じ集落に祖父母や両親、子どもがともに暮らしていた時代と異なり、現代は子どもや孫の世代が故郷を離れて暮らしているケースは少なくありません。
お墓を建てると、子どもや孫は遠方からお参りに来る必要がありますが、海洋散骨を行えば埋葬のためにお墓を建てる必要がなくなります。
先立つ側からすればお墓の維持・管理を依頼する心苦しさなどから解放されますし、遺される側も心身にかかる負担を回避することができます。
お墓の購入・維持に比べると安い
一般的なお墓の購入費用の平均は170万円。また、お墓は建てて終わりではなく、霊園への管理費の納入などの維持費が必要になります。
海洋散骨はお墓を持たないので、こうした費用の負担は0になります。
海洋散骨は自分でできる?
海洋散骨を業者に依頼するのではなく、自分で行いたい人もいるでしょう。
法的には問題はありませんが、海洋散骨を自分で行う場合には以下の2つの点に注意が必要になります。
粉骨が難しい
遺骨を粉末状になるまで細かく砕く場合に、手で行うのは相当の手間と時間と体力を有します。
また、遺骨を袋に入れてハンマーなどで叩く行為自体に、遺族が心理的に耐えられるかどうかも疑問です。
粉砕機を使って行えば手間や時間は省けますが、どちらにしても心理的にはかなり負担がかかる作業であることは間違いありません。
トラブルを避ける場所選びが必須
今のところ法律では海洋散骨の場所を規制していませんが、条例で禁止している自治体や市町村はあります。まずは散骨場所が条例の禁止区域に指定されていないか確認しましょう。
その上で、以下の場所はトラブル回避の観点から避けるべきとされます。
- 漁業区域や養殖場
- 砂浜や沿岸
- 防波堤や橋の上
- 観光地や海水浴場
- 海洋散骨用の船以外(フェリーや遊覧船など)
海洋散骨は法律の規制がないからと好き勝手をしてしまえば、今後は厳しい法律が作られて、故人の願いを叶えられなくなってしまうかもしれません。
海を愛した故人に悲しい思いをさせないよう、モラルや常識のある行動を取りましょう。
海洋散骨が向く人・向かない人
海洋散骨は、墓じまいを検討している人にも注目されています。
これまでとおりの供養を続けるか、墓じまいをして海洋散骨を行うか迷っている場合は、以下の項目をチェックしてみましょう。
向く人 | 向かない人 |
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向く人
故人の遺志を叶えることは、遺族にとっては心の傷を癒す薬になります。
また、現実問題としてお墓を建てたり管理するにはお金が必要です。金銭的に余裕がない場合や、維持の見通しが立たない状態では不安が強く、冥福を心から祈ることができないかもしれません。お墓に対する悩みが解決すれば、平穏な気持ちで故人の冥福をお祈りできるでしょう。
伝統的な葬送の形式に縛られたくない、お墓に手を合わせなくても故人の冥福を祈ることはできると考えている人も海洋散骨に向いています。
向かない人
全国石製品協同組合の調査によると、お墓を持っている40代以上の男女の90%が年に一回以上はお墓参りをしていると分かりました。
お墓参りをする人の数が減っているといったニュースを耳にしますが、実態は伝統的な供養が大切だと考えている人のほうがまだまだ多く、お墓を持たない散骨に対して抵抗がある人は少なくありません。
海洋散骨で後悔しないための注意点
後から「もっとこうすれば良かった」と思っても、やり直しできないのが海洋散骨です。
後悔せずに行うには、事前の準備や心構えがとても重要になります。
業者を慎重に選ぶ
海洋散骨の認知度が広がりとともに、悲しいことですが悪徳業者が増えている現状があります。
費用の安さだけで業者を決めるのではなく、様々な情報を得て、総合的に判断するようにしましょう。
分骨するという選択肢もある
故人が「遺骨はすべて海に撒いてほしい」と希望していたとしても、故人の形跡が消えてしまうことに遺族が淋しいと思うのであれば、分骨をして手元に残す方法もあります。
散骨業者の中には、オプションで分骨のプランを設定しているところもあり、以下のようなサービスを行っています。
- 骨壺(小型)に保管
- ペンダントの内部に収納
- 合成ダイヤモンドに加工
- 人工宝石に加工してアクセサリーにする
親族に説明して理解を得る
故人や遺族の意向は一致していても、親族の中には海洋散骨に抵抗を感じる人がいるかもしれません。
特に年配者や伝統を重んじる地域などでは敬遠される葬送方法であるため、事前に十分な説明を行い、納得してもらうことが大切です。
海洋散骨の業者の選び方
後悔しない海洋散骨の実現には、誠実に対応してくれる業者を選ぶ必要があります。
しかし、海洋散骨は知られるようになってまだ日が浅いこともあり、どのような業者を選べばよいのかよく分からない人は多いでしょう。
海洋散骨業者を選ぶポイントをご紹介します。
故人が希望したエリアで散骨できるか?
海洋散骨業者によって、散骨できるエリアが違います。
故人の希望が「海であればどこでも良い」のであれば問題はありませんが、多くの場合は生まれ故郷や住み慣れた場所、旅先などの思い出の地であるはずです。
希望するエリアで散骨ができるのかは、最初に確認すべきポイントと言えるでしょう。
ただし、海洋散骨を行っている業者は多くはないため、必ずしも希望の場所で散骨ができるとは限りません。
粉骨作業をしっかり行っているか?
粉骨作業をしっかり行っているかの「しっかり」には、次の2つの意味があります。
- 遺骨が粉末状になっている
- 遺骨を大切に扱っている
散骨業者の自主規制では、遺骨は直径2㎜以下になるように粉砕されますが、適当な作業を行っている業者に依頼をすると、遺骨のかけらが残っているなど仕上がりに差が出ます。
また、散骨業者の多くは粉砕機をその都度洗浄し、ほかの故人の遺骨が混ざらないように配慮している場合がほとんど。しかし、悪徳業者の中には、効率優先で粉砕機の洗浄を行わないところもあるようです。
遺骨の取り扱いについては、実際に粉砕している様子を見せてくれる業者もあります。ですが、見たくない気持ちがある場合は無理をする必要はありません。業者が粉骨作業をしっかりと行っているかは、ホームページで施工の過程を表示している、発送が丁寧に行われているなどをチェックできます。
ガイドラインを守っているか?
散骨についての法整備が追いついていない現状を危惧し、厚生労働省では散骨に関するガイドラインを公開しています。
また、日本海洋散骨協会も、業界独自のガイドラインを制定し、業者に遵守することを呼びかけています。
これらのガイドラインは、業者だけではなく海洋散骨を希望する遺族も必ず知っておきたいところ。内容をよく読み、業者が守っているか確認しましょう。
散骨証明書を発行してくれるか?
散骨証明書は公的な証明書ではないものの、海洋散骨が適切な場所で正しく行われたことを証明するものになります。
記載内容は以下のとおり。
- 故人の名前
- 海洋散骨を行った日付
- 散骨をした海域の緯度・経度
日本海洋散骨協会のガイドラインには、遺族から希望があった場合には散骨証明書を交付するように記載されていますが、多くの業者は遺族からの希望がなくても交付しています。
交付をしない業者は日本海洋散骨協会のガイドライン違反を犯しているため、選ばないようにしてください。
提案やヒアリングが丁寧か?
海洋散骨について豊富な知識を持ち合わせている遺族はごく稀です。しかし、業者の中には横柄な態度をとったり、難しい用語を並べて説明するケースもあります。
遺族が詳しく知らないことを前提とし、質問に優しく耳を傾けながら、丁寧で分かりやすい言葉で伝えてくれる業者は信頼に値すると言えるでしょう。
また、故人を見送るのは遺族にとって辛く悲しい時間です。希望する場所での散骨が難しい場合でも、できるだけ故人や遺族の意向に沿った形で散骨が行えるよう、様々な提案をしてくれる業者は、遺族の心に寄り添った誠実な対応していると言えます。
相見積もりを取る
散骨業者を決めるときは、一社からの見積もりで決めてしまわずに複数の業者から見積もりを取るようにしてください。
相見積もりを取ることで、極端に安い、もしくは極端に費用が高い業者を見抜くことができます。また、費用の違いだけではなく、業者の対応も分かりやすくなるなどメリットが多いため、必ず行いましょう。
国内で海洋散骨ができるエリア
海洋散骨は、漁業や海水浴場など周囲に迷惑をかける恐れのある場所は各自治体や市町村の条例によって禁止されています。
それでは、どこであれば海洋散骨を行っても問題がないのでしょうか。
公海
区分 | 低潮線(※)からの距離 |
---|---|
領海 | 12海里 |
接続水域 | 24海里 |
排他的経済水域 | 200海里 |
公海 | 200海里を超える |
(※)海面が最も低くなったときの、陸地との境界線のこと
公海とは、特定の国の所有権に含まれず、すべての国の航行が可能となる海域を指します。そのため、公海への海洋散骨は問題がありません。
なお、1海里は1,852mなので、200海里を超える公海は低潮線から370.4㎞以上先となります。
私有地
海を個人や団体が所有することはできないので、海に私有地は存在しません。
陸地の私有地であれば散骨できますが、自宅の庭に撒く場合は近隣の住人への配慮が必要です。
条例やガイドラインに適合している場所
自治体による海洋散骨の条例の制定例には、以下のものがあります。
海洋散骨は、各自治体が定めた場所で行いましょう。
また、自治体によっては海洋散骨が認められていないケースもあります。
厚労省による散骨の業者向けガイドライン
ガイドラインは国や団体が示す指針や指標を指すもので、法律とは違い拘束力はありません。
しかし、ガイドラインの遵守はトラブル回避に役立ちます。それは自身や会社を守るだけではなく、しいては業界全体の信頼性を高めることに繋がります。
以下のガイドラインは厚生労働省が出典元となるため、国が示す海洋散骨の方向性と捉えて必ず守るようにしましょう。
海岸から一定距離はなれている場所から行う
具体的な数字が明記されておらず、実際にどのくらい離れていれば問題がないのか曖昧ですが、ガイドラインには「地理条件、利用状況等の実情を踏まえ適切な距離を設定する」とあります。
遺骨は粉末状に砕く
ガイドラインには「焼骨は、その形状を視認できないよう粉状に砕くこと」と記されています。撒かれたものが遺骨であると周囲の人に気づかれると、心理的な不安や不快感を与えかねません。
そのため、見た目では遺骨と分からないように細かくする必要があります。
地域住民や漁業者など関係者に配慮する
人目に付きやすい場所での散骨は風評被害の原因となり、漁業や観光業に大きなダメージを与えてしまいます。
また、海洋散骨は葬送方法の一つながら、喪服は避けるのがマナー。海洋散骨でチャーターする船は一般の人が集まる桟橋などを利用するため、喪服を着ていると目立ちますし、これから海洋散骨をすると知られてしまう可能性があるからです。
例えば福岡市の福岡マリーナは船だけではなく、ボートの貸し出しや水上オートバイの講習を行っているので、観光客や市民に対して十分な配慮が必要です。
自然環境に悪影響を及ぼさないようにする
海洋散骨では副葬品を海に投下するため、自然に還らないものは投下してはいけません。
具体的には以下のものが挙げられます。
- プラスチック
- ビニール
- 金属等
例えば花を投げ入れるのであれば花を包んでいるビニールは外す、手紙やメッセージカードは水溶性のものを利用するなど、自然環境に配慮をする必要があります。
安全を確保して行う
- 必要な教育訓練を受けた従事者及び補助者の配置
- ライフジャケット等の安全装具の確保等
遺族の中には「一般的な葬儀と同様に、喪服で参列したい」と思う人がいるかもしれません。こうした意向に対し、心情に理解を示しながら、安全面の配慮の観点から平服が望ましい旨を伝えるのも大切です。
船の上は陸上とは異なり、揺れが生じたりしぶきで足元が濡れているため、喪服やヒールの高い靴では怪我や事故が起こる可能性が高くなります。
着慣れた服装のほうが、動きが制限されずに怪我や事故を防止できることを伝えましょう。
海洋散骨の流れ
海洋散骨は個人でも行えますが、遺骨を粉砕したり、船やクルーザーを外洋まで出す必要があるため、一般的には散骨業者に依頼して行われます。
散骨業者に依頼した場合は、次のような流れで進んでいきます。
散骨業者を選ぶ
散骨業者によって散骨が行えるエリアが違うため、まずは散骨を希望する場所がエリアに含まれている業者を選ぶ必要があります。
その上で複数の業者から見積もりを取り、費用やセレモニーの内容などを見比べて、条件に合う業者を選ぶようにしましょう。
散骨業者が決まったら申込を行いますが、主な必要書類は以下のとおりになります。
- 海洋散骨依頼書、同意書
- 海洋散骨申込書
- 火葬許可書もしくは埋葬許可書、改葬許可書(いずれかのコピー1通)
- 申込者の身分証明書のコピー1通
遺骨を散骨する
海洋散骨の当日は、クルーズ船で出航後に散骨ポイントまで向かいます。
散骨ポイントに到着後に船上から散骨を行いますが、粉末状になった遺骨を直接撒くのではなく、水溶性の紙袋に遺骨を入れて海に向かって投下する方法をとるのが一般的です。
献花・献酒を行う
献花・献酒は海洋散骨のセレモニーでは必ず行われる儀式です。
一般的な葬儀の場合、使用される花はある程度決まっていますが、海洋散骨には特に制限はありません。
献花は業者が用意しますが、故人の好きだった花を手向けたいなどの場合は遺族が用意しても問題ありません。棘があるという理由で避けられるバラも、海洋散骨では多く使われています。ただし、毒のあるものは自然を破壊する恐れがあるので避けましょう。
また、海洋散骨ならではの理由で、デルフィニウムが献花としてよく選ばれています。デルフィニウムはイルカを語源としたギリシャ語で、イルカのように海を自由に泳いでほしいという遺族の願いが込められています。
献酒についても特に酒類は限定されていません。ですが、海に棲む生き物への影響を極力避けるため、代表者が適量を注ぎ入れて行われることが多いです。
散骨証明書が渡される
海洋散骨を行うと、後日に散骨証明書と一緒にセレモニーの様子を撮影した写真が郵送されます。
散骨証明書には公的なものではなく、役所などに提出する必要はありません。
故人が眠る場所が記載されているので、大切に保管しておきましょう。
海洋散骨の費用は15万円前後
海洋散骨は、決して安上がりな選択肢ではありません。費用は15万円前後がかかる上に、事前調査も必要です。
海洋散骨の費用を安く済ませたい場合は、自分で遺骨を粉末状にし、クルーズ船で海に出て撒く方法もあります。
しかし、遺骨を粉々にする作業は心理的なストレスが強く、ガイドラインを遵守した散骨を行うには豊富な知識も必要です。
大切な人との最期の別れの時間は、1分1秒が貴重なもの。
信頼できる業者に海洋散骨を依頼できれば、セレモニーまでの時間を有意義に過ごせます。
メリット・デメリットを把握し、遺族だけではなく親族との話し合いも十分に行った上で、後悔しない海洋散骨を行ってください。