近年は、死生観の変化などに伴い、自宅で最期を迎えたいと思う人が増えています。
しかし、厚生労働省の調査によると、2021年に自宅で死亡した人は全体の15.7%。一方で、病院で亡くなった人は68.3%と、圧倒的に病院で亡くなる割合が高いのが現状です。
そのため、家族や同居人などが自宅で亡くなった場合、どうしたら良いのか分からない人がほとんどでしょう。対処によっては、遺族が辛い時間を過ごす可能性もあります。
自宅で亡くなった場合はどこに連絡すべきか、多くの人が必要になるであろう知識を解説します。
なお、療養中の死亡ではなく、急死だった場合には、絶対にやってはいけないことがあるので、急死の場合には先に下記記事を確認ください。
自宅で亡くなった場合はどこに連絡すべきか
家族や友人、知人などが朝起きたら亡くなっていた場合、大半の人は救急車を呼ぶのではないでしょうか。
しかし、亡くなっているとはっきりと分かるのであれば、救急車を呼ばないほうが良いケースもあります。
家族が自宅で亡くなった時に救急車を呼ぶと遺族はさらに辛い目に遭うことも多いので、まずは冷静になって判断を考えましょう。
救急車を呼ぶと警察の介入がある
死亡の判断や宣告ができるのは、基本的に医師のみです。
救急車を呼んで駆け付けた救急隊員は、蘇生の可能性があれば病院に運びますが、心肺停止状態などの場合は社会死(医師が判断を行わなくても明らかに死亡していることが分かる状態のこと)と判断して警察に連絡を行います。
警察の到着後は、証拠保全のために現場への立ち入りを制限。加えて事件性の有無の確認のために、家族や同居人などに対する事情聴取などの検視が行われます。
家族が自宅で亡くなっただけでも大変なのに、遺族はさらに辛い目に遭う可能性があるのです。
また、死因の特定に司法解剖が必要になると、ご遺体がしばらく遺族の元へ戻らない可能性も。警察が介入した場合は、医師からの死亡検案書がないと葬儀を執り行うことはできず、遺族は不安な日々を過ごすことになります。
かかりつけ医や病院へ連絡したほうがスムーズ
死亡推定時刻から24時間以内に診療や治療を受けており、なおかつ死亡の原因が持病によるものと判断されれば、臨終に立ち会っていなくても死亡診断書を発行してもらえます。
また、24時間以上が経過していても、特に不審な点がなければ診断書を作成してもらえるでしょう。
ただし、かかりつけ医の在籍する病院によって対応は変わります。訪問診療を行っているのであれば、担当医が自宅まで来て死亡確認をしてもらえる可能性は高いですが、訪問診療を行っていない病院では警察へ連絡するように促されるので注意してください。
かかりつけ医がいない場合は警察へ連絡する
亡くなっていると分かる状態では、救急車は病院に運べません。
救急隊員が来ても死亡診断書は発行されませんし、警察を呼んで帰ってしまうので、二度手間を防ぐためにも慌てずに警察に連絡するようにしてください。
自宅で亡くなってかかりつけ医を呼ぶケース
持病があって在宅療養をしていた場合に、自宅で亡くなったらかかりつけ医(往診医)に連絡をしましょう。
医師によって死亡と診断されてから葬儀までの流れは、以下のとおりです。
死亡診断書を書いてもらう
死亡診断書は、人の死を医学的・法的に認める書類になります。
死亡診断書には死亡届がセットになっており、この2つがないと葬儀や火葬の手続きを行うことができません。
厚生労働省が定める死亡診断書の記入内容には、次の項目があります。
- 故人の氏名・性別・生年月日
- 死亡した日時
- 死亡した場所
- 死亡の原因
- 死因の種類
- 外因死の追加事項
- 生後1年未満で病死した場合の追加事項
- その他特記すべき事柄
- 診断年月日・病院名・医師の氏名など
なお、死亡診断書は、無料でもらえるものではありません。死亡診断書の作成費用は病院によって金額が変わりますが、一般的には3,000円~1万円です。
ご遺体をベッドや布団に安置する
日本では、墓地、埋葬等に関する法律により、死後24時間以内に火葬を行うことを禁止しています。そのため、少なくても1日は自宅などにご遺体を安置する必要があります。
自宅に安置する場合、安置場所は仏間が望ましいですが、なければ畳のある部屋が良いでしょう。洋室しかない家であれば、生前故人が暮らしていた部屋で構いません。
ご遺体は故人が使っていた布団やベッドに頭の位置が北向き、もしくは西向きになるように仰向けに寝かせます。普段使っていた寝具でも良いですが、可能であればシーツや枕カバーなどを白いものに取り換えるのが良いでしょう。掛け布団は、頭側と足側が本来とは逆になるようにしてください。
なお、自宅にスペースがないなど安置所を設置できない場合は、葬儀会社に連絡をすると斎場の安置所に運んでもらえるので相談してみましょう。
菩提寺に連絡して読経を依頼する
菩提寺に連絡をして僧侶に自宅へ来ていただき、枕経をあげてもらいます。また、葬儀での読経の依頼を行いましょう。
菩提寺がない場合は葬儀会社に相談をすると、故人や遺族の宗教や宗派に合わせて紹介を受けられます。
葬儀社と葬式の打ち合わせをする
- 喪主や施主
- 葬儀日時
- 葬儀場所
- 葬儀の形式
- プラン内容
- 参列者の人数
- 予算
など
葬儀の日付は葬儀会場や火葬場の混雑状況、菩提寺の僧侶の都合などによって、必ずしも希望の日に執り行える訳ではありません。
日本の葬儀の多くは仏式ですが、仏教でも宗派によって内容が変わるため、故人が信仰していた宗教や菩提寺があれば必ず葬儀担当者に伝えましょう。
また、最初から葬儀社を一社に絞るのではなく、複数の葬儀社から見積もりを取って比較検討した上で手配することをおすすめします。
死亡届の提出と火葬・埋葬許可申請を行う
- 死亡者の死亡地
- 死亡者の本籍地
- 届出人の所在地
戸籍法では、死亡届は故人の本籍地である市役所や区役所、町役場、村役場に提出する必要がありますが、本籍地と住所地(居住地)が違う場合には、亡くなった場所での提出も認められています。例えば本籍地は横浜市で現在の住所が北海道札幌市であれば、横浜市か札幌市で提出できます。
なお、本籍地以外で死亡届を提出する場合は、死亡届は2通必要(本籍地のある役所へ死亡届を送付する必要があるため)になるので注意してください。
死亡届は、死亡を知った日から7日以内に提出をする必要があります。
死亡届の届出人となれるのは、以下のとおり。
- 親族
- 同居人
- 後見人
- 故人が借りていた不動産の家主や地主
届出人には制限がありますが、役所に書類を提出する人に制限はありません。遺族は通夜や葬儀の準備などで忙しいため、死亡届の提出は葬儀社が代理で行うのが一般的です。
死亡届と死亡診断書(死亡検案書)を提出すると、役所から火葬許可書を受け取れます。
また、死亡届に付帯している死亡診断書(死亡検案書)も一緒に提出することになりますが、死亡届けや死亡診断書(死亡検案書)は、生命保険や年金などの手続きで必要となるため、必ず複数枚コピーをとっておきましょう。
親族や参列者へ連絡する
訃報の連絡は一般的には電話で行いますが、相手との関係性によってはメールやLINEなどのツールを使っても良いでしょう。まずは一報を入れ、後から電話でフォローをすると丁寧です。
親族や参列者への連絡には、次の2つの方法があります。
- 訃報を伝えた上で、葬儀の詳細も伝えて参列をお願いする
- 訃報を伝えた上で、参列の辞退をお願いする
参列の辞退をお願いする場合は、故人や遺族の意向で近親者のみで執り行うことを伝えると良いでしょう。身内のみで行うのであれば、訃報の連絡も行わず、葬儀後に連絡する方法もあります。
また、参列者は遠方から葬儀場へ向かったり、会社や学校を休む必要があるので、葬儀の参列をお願いするときはできるだけ早くお知らせしてください
湯灌・納棺
湯灌とは故人の体を清める儀式のこと。体を綺麗にするだけではなく、現世の穢れや煩悩を洗い流し、成仏を願う意味合いが込められています。
昔は納棺の前に必ず遺族が行っていました。しかし、精神的な負担が大きいなどの理由で、現代は湯灌師(映画『おくりびと』の題材となった職業)が行われることが多いです。
湯灌が終わると、ご遺体を棺に納める納棺を行います。
納棺の流れは、以下のとおり。
- 納棺は故人の喉を潤す「末期の水」
- あの世へ向かう服装となる「白装束」
- 身だしなみを整える「死化粧」
- 故人の愛用品などの副葬品を一緒に納める
- 最後に蓋を閉じて終了
葬儀を行う
葬儀の内容 | 日程 |
---|---|
通夜 | 1日目の夜 |
葬儀・告別式 | 2日目 |
1日目の夜に行われるお通夜には、親族を始め、友人や会社関係者、近所の人など、参列者が故人との別れを惜しみます。
お通夜の後に行われる通夜振る舞いには、僧侶や参列者に対する感謝の気持ちを伝え、故人を偲ぶ意味がありますが、家族葬では通夜振る舞いを行わない場合もあるでしょう。
2日目は火葬の時間に合わせて葬儀・告別式が行われ、その後は出棺、火葬の流れになります。
自宅で亡くなって警察を呼ぶケース
明らかに亡くなっていると判断ができ、なおかつかかりつけ医がいない場合は警察に連絡をしてください。
事情聴取を受ける
事件性の有無を調べるために、第一発見者となった家族や同居人などは警察から事情聴取を受けることになります。さらに近所に聞き込みを行うこともあります。
大切な人を亡くしたばかりで気が動転し、パニックになってしまうかもしれません。
しかし、警察に事件性はないと判断され、死亡検案書を出してもらえなければ、葬儀を出すことも荼毘に付すこともできません。
落ち着いて対処ができれば、辛く苦しい時間が早く終わるでしょう。
死体検案書を受け取る
警察の検視により事件性がないと判断されると、警察の依頼を受けた医師が亡くなったときの状況や持病・既往症などから死因を特定し、死亡推定時刻などを死亡検案書に記入します。
なお、検視と同意語として使われることが多い検死ですが、検視は法律的な用語なのに対し、検死には法的な意味合いはありません。
また、検死は検視・検案(※)・解剖を含む広義的な意味合いがあり、明確には定義されていません。
(※)死因を医学的に調査することを指す法律的な用語になるため、法的には検死ではなく検案が用いられます。
葬儀社への相談は早めに行う
死体検案書が作成される前に医師の死亡確認が終わっていれば、葬儀会社に連絡をして構いません。
葬儀会社を早めに決めておけば、ご遺体が戻って来てから慌てずに済みますし、待っている間に葬儀会社に相談をしたり、胸の内を聞いてもらうこともできます。
場合によっては解剖の後にご遺体を引き取る
検視で死因が特定できない場合は、ご遺体は警察署に移されて監察医や法医学者による解剖が行われます。
解剖によって死因が病死や自然死と分かれば警察から連絡があり、ご遺体を引き取れます。ご遺体の搬送には葬儀社の搬送車を利用するため、葬儀を執り行う葬儀社についてはあらかじめ決めておくのが良いでしょう。
ご遺体が戻ってきてからの流れは、かかりつけ医を呼ぶケースの「死亡届の提出と火葬・埋葬許可申請を行う」からと同じになります。
自宅で亡くなった場合のエンゼルケア
エンゼルケアで美しく身なりを整えるのは、以下の2つの意味があります。
- 故人の旅立ちを尊んで見送れる
- 深い悲しみにある遺族が死を受け入れるきっかけになる
長い闘病や事故などが原因で容貌が変化したまま見送るよりも、生前の元気だったときの様子が思い浮かぶ姿で天国に向かわせたいと、誰もが思うのではないでしょうか。
髪を整えたり、髭を剃ってあげて「旅立ちの準備をしてあげられた」という経験が、大切な人を失った悲しみから立ち直るきっかけとなることもあります。
病院で亡くなるとエンゼルケアは看護師が主として行いますが、自宅で亡くなった場合は誰が行うのでしょうか。
医療器具が付いている場合は医師・看護師に依頼する
在宅療養で医療器具を使用していた場合は外す必要があり、医療器具を外した後の傷口の縫合は医師しか行えません。
また、時間の経過とともにご遺体は腐敗が進んでいくため、医療的な処置が必要になります。
- アルコールを浸した脱脂綿で体を拭く(清拭)
- 腹部を圧迫して内容物を取り除く
- 体液の漏れ出しを防ぐためにゼリーを用いるなど
こうした処置は素人には難しいので、かかりつけ医や訪問看護師に依頼するのが良いでしょう。
専門業者や葬儀社スタッフに依頼する
医療行為を伴わないエンゼルケアには、資格は必要ありません。
遺族が行っても問題はありませんが、感染症の予防の観点や、ご遺体を傷つけたりしないよう細心の注意が必要なため、葬儀社に相談・依頼をするのが良いでしょう。
また、介護施設や訪問介護の業者がエンゼルケアを行っているケースもあります。
自宅で亡くなった場合の注意点
大切な人が亡くなっている場面に遭遇し、落ち着いて対処をするのは難しいです。
しかし、対処を誤ってしまうと、より心に負担がかかる結果となってしまいます。
いざというときに慌てないように、次の2点に注意しましょう。
ご遺体を動かさない
お風呂場で裸のまま倒れていた、窮屈な体勢で亡くなっていたなどの場合、服を着せてあげたり、楽な姿勢に直してあげたくなるものです。
ですが、かかりつけ医もしくは警察によって死亡確認が行われ、死亡診断書または死亡検案書が作成される前にご遺体を動かしてしまうと、証拠隠滅等の疑いをかけられてしまうことがあります。
着せたい衣服を用意しておく
かかりつけ医が死亡確認をした後は、看護師やヘルパーがエンゼルケアを行います。
また、警察の死亡確認後に、葬儀社に連絡をして同様の手順を踏むことになりますが、その際に着せたい衣服を用意しておけば着替えを行ってくれます。故人が生前気に入っていた服があれば、事前に用意しておきましょう。
自宅で亡くなった場合はかかりつけ医か警察に連絡する
家族が自宅で亡くなった時に救急車を呼ぶと、遺族はさらに辛い目に遭う可能性があります。
在宅診療を受けていれば、まずはかかりつけ医に連絡してください。かかりつけ医がいなければ警察を呼びましょう。
警察が来ると事件性がないか確認するため事情聴取が行われますが、病死や自然死であることが分かれば、すぐに死亡検案書を作成してくれます。
自宅で最期を迎えたい本人や自宅で最期を看取ってあげたい家族などは、いつそのときを迎えても大丈夫なように、こうした流れを把握しておく必要があります。