「仏教」「キリスト教」などのように、宗教によって葬儀の形式が異なることはご存知のとおりですが、同じ宗教であっても宗派によって特徴や内容が変化します。
日本国内において仏教系の割合は非常に高く、伝統的仏教宗派は13宗派が存在します。臨済宗もそのうちのひとつで、在来仏教とも呼ばれる中国禅宗の五家七宗です。
喪主となる場合はもちろん、参列者であっても作法やマナーを把握しておくと、葬儀をスムーズに執り行うことに役立ちます。
ここでは、臨済宗の葬儀の特徴や作法・マナー、葬儀の流れについて解説します。
臨済宗の葬儀
一般的に、臨済宗の葬儀は禅堂で行われ、参列者は、喪主・家族・親戚だけでなく、故人が交流のあった人や、信徒・門徒・僧侶・弟子などが参列することがあります。
臨済宗の葬儀は、禅宗の基本的な考え方である「生死一如」という教義に基づいて行われます。つまり死と生は切り離せないものであり、死を迎えることは生を終えることであると考えられているのです。
そのため、臨済宗の葬儀では、故人の死を悲しむ導師だけでなく、生前の功徳をたたえ、成仏への道を祈念することが重要視されます。お経の後半で導師が「喝!」と叫ぶのは、故人が持つ現世の未練を断ち切るためのものです。
臨済宗の葬儀のマナー・作法
お葬式の内容が宗派によって異なるのと同様、マナーや作法にも違いがあります。臨済宗の葬儀では、禅宗ならではの教えにもとづく作法やマナーが特徴的です。
ここでは、臨済宗の葬儀における基本的なマナーや作法を解説していきます。
数珠は片手念珠が多い
臨済宗の正式な数珠は、人間の煩悩を解消する力があるされる108の玉が連なった看経念珠(かんきんねんじゅ)ですが、信仰している人の多くは略式の片手念珠を使用している人が多いといわれています。
片手念珠・看経念珠ともに合掌以外で持ち歩く際には、左手首にかけておくのが作法であり、長さのある看経念珠は二重にしてかけます。
合掌する際には、左手の親指と人差し指の間にかけ、右手を添える形で行いましょう。なお、看経念珠の場合には、数珠を指にかけた際に房が下にくるようにする作法があるため注意が必要です。
焼香の手は額まで上げない
焼香を行う際、「前の人に倣ってやれば良い」と考えている人も多いことでしょう。しかし、焼香においても手の上げる高さや回数など、宗派によってやり方が異なります。
臨済宗の場合、香炉の前で一礼後、右手親指・人差し指・中指の3本で抹香をつまみ、額まで上げることなく香炉にくべ、回数も1回であることが一般的です。
当日慌てずに済むよう、事前に宗派を確認しておくと良いでしょう。
線香は一本だけ立てる
仏様・法の教え・僧の全てを大切にご供養するという「三宝」の考え方から、線香を3本立てる葬儀も多いですが、臨済宗の場合には一本だけ立てます。
こちらは、回向文(えこうもん)が宗派によって異なることにも関係があります。
また、お香の火を消す際には左手であおぐといった作法もあるため、覚えておきましょう。
お布施は地域や寺院で金額相場が異なる
葬儀には僧侶に読経や戒名をつけていただくためのお布施が必要ですが、こちらは地域や寺院で金額相場が異なります。
一般的に、お通夜・ご葬儀・告別式・火葬時の読経などを含めると寺院費用は50万円ほどが相場とされているため、こちらを基準に考えるのも方法のひとつです。もし自身の終活のために葬儀費用を残そうとしている人は、参考にしてみてください。
金額が高いように感じられるかもしれませんが、これは臨済宗の葬儀では太鼓をはじめとする鳴り物を使用するため、導師・副導師の2名分の費用が発生するからです。
また、依頼する葬儀場やプランによって内容が変わるため、葬儀社に確認することもおすすめします。
表書きにおいては臨済宗ならではの違いはなく、四十九日までなら「御霊前」、四十九日以降なら「御仏前」とするため、こちらも覚えておくようにしましょう。
臨済宗の葬儀におけるお布施の金額・費用
お布施は地域や寺院で金額相場が異なりますが、喪主や施主となる人は基準となる金額を知りたい人もいることでしょう。
ここでは、臨済宗の葬儀におけるお布施の金額・費用の目安を紹介していきます。
読経料
葬儀の種類 | 読経料の相場 |
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お葬式 | 15~50万円 |
四十九日 | 3~5万円程 |
臨済宗は10以上の宗派に分かれていることもあり、金額に差が出やすいです。
不安があれば、親族や寺院に相談して決めるようにすると良いでしょう。
戒名料
位(くらい) | 戒名料 |
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信士・信女 | 30~50万円 |
居士・大姉 | 50~80万円 |
院居士・院大姉 | 100万円~ |
戒名料金は、他の宗派と同様にランクがあり、高位になるほど金額が高くなります。
決して安い金額ではありませんが、戒名は故人が仏門に入った証であり、死後の世界での名前にもなる重要なものであるため、慎重に検討するようにしましょう。
お車料
お車料とは、僧侶が葬儀場に出向いてくれたことに感謝を表すための費用のことです。こちらは、5千~1万円程が一般的であるとされています。
僧侶に対してお渡しする交通費と考えると理解しやすいでしょう。
御膳料
御膳料とは、葬儀や法事などでの会食に、僧侶が参加しなかった際にお渡しするお礼のことです。
こちらは、お車料同様5千~1万円程が相場とされています。
お包みする金額に悩んだ際には、その会食の1人あたりの費用にお礼の金額を上乗せすることを基準に考えると良いでしょう。
臨済宗の葬儀の式次第・流れ
宗派が違えば内容が異なるとおり、葬儀の進め方も臨済宗独自のものとなります。
ここでは、臨済宗の葬儀の式次第・流れについて解説していきます。
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STEP1導師の入場・剃髪導師・式衆が入場後に「剃髪(ていはつ)の偈」を唱えます。その際、三唱しますが、一回目に一度、二回目に二度、三回目に三度、横に剃刀を払うのが一般的とされています。
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STEP2懺悔文授戒の儀式のことで、故人の過去の行いや小さな罪をを懺悔・反省し、安らかに成仏することをお願いするものです。
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STEP3三帰戒文三帰戒文(さんきかいもん)は、仏教の教えを受けて、仏・法・僧に帰依することを誓うものです。
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STEP4三聚浄戒・十重禁戒酒水器に移した法性水を柩に注ぐ酒水灌頂(しゅすいかんじょう)と呼ばれる清めの儀式です。
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STEP5血脈授与お香を焚き、血脈(先祖から故人へ仏法を継いできたことを記した系譜)を霊前に安置する儀式です。
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STEP6入龕諷経入龕諷経(にゅうがんふぎん)では「大悲呪(だいひしゅう)」と「回向文(えこうもん)」が読経されます。本来お通夜の際に行われるもので、葬儀では儀礼的に行われます。
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STEP7龕前念誦龕前念誦(がんぜんねんじゅ)は棺を閉ざす時に行われる儀式のことで、大悲呪(大悲心陀羅尼)と回向文が読経されます。
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STEP8起龕諷経出棺に際、大悲呪を読み回向文を唱える儀式です。
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STEP9山頭念誦山頭とは葬場のことを指し、そこから浄土へ行く手助けをするための念誦のことです。
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STEP10引導法語導師によって故人を浄土に送り出すための引導法語が唱えられます。導師が「喝!」と叫ぶ部分があり、故人の現世への未練を断ち切ります。
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STEP11焼香観音経や大悲心陀羅尼が唱えられるなか焼香を行います。
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STEP12告別式故人とゆかりのある人がお別れをするための儀式です。
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STEP13出棺棺が葬儀場から火葬場へ向かいます。
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臨済宗の知識
葬儀を執り行う人や参列者など、葬儀でも様々な立場がありますが、葬儀を行う宗派について理解をしておくと見え方も変わってくるものです。
ここでは、臨済宗の基本的な知識を紹介します。
臨済宗の本尊
臨済宗は、禅宗の一派であり、中国の臨済義済(りんざいぎさい)が創始者とされています。
日本には、中国禅宗の中でも特に高い評価を受けていた臨済宗の禅僧・栄西が鎌倉時代に渡来し臨済宗を伝えました。
通常、仏教では信仰対象として最も尊重される仏像を本尊としますが、臨済宗では自分の内に持っている仏性に向き合うことを重視していることから、特定の本尊は定められていません。
しかし、釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)がお祀りされることが多いことから、南無釈迦牟尼仏(なむしゃかむにぶつ)と唱えるのが特徴的です。釈迦牟尼仏は釈尊(しゃかそん)とも呼ばれ、仏教の開祖である釈迦(しゃか)が涅槃した後、遺体が安置された仏舎利を指します。
仏教では、釈迦牟尼仏を崇敬することが重要であり、臨済宗の修行においても、釈迦牟尼仏を礼拝することが大切な要素の一つです。臨済宗では、釈迦牟尼仏を中心に多くの祖師の像が安置されていますが、これらの祖師の中には、臨済義済や臨済道隆(りんざいどうりゅう)など、臨済宗の開祖とされる人物も含まれています。これらの像も、臨済宗の信仰の対象となっています。
また、特定の経典は定められていませんが、般若心経や観音経が読まれることが多いということを覚えておくと、葬儀で戸惑うこともないでしょう。
臨済宗の教え
仏教では、欲望や執着といった苦しみから解放され、浄土に旅立つことを目的としていますが、ここでも宗派によって違いがあります。
例えば浄土宗や浄土真宗などでは、念仏を唱えることによって誰でも浄土へと旅立てるという「他力」の教えを説いています。
一方、臨済宗では特定の本尊を定めず、自らの内にある仏性を重視する考え方から、浄土へ旅経つために坐禅によって悟りを得るという「自力」を教えとしています。
瞑想や慈悲、悟りの境地に至るための修行を通じて自己と他者を深く理解し、自分自身の本質を見つける教えであることを理解していると、執り行われる葬儀の見え方も変わってくることでしょう。
臨済宗の経典
臨済宗の葬儀でよく読まれる経典は、次のものが挙げられます。
般若心経(はんにゃしんきょう)
仏教の経典の一つで、真実の智慧を開くための教えをまとめたものです。正式名称は「摩訶般若波羅蜜多心経」といい、釈迦如来が説いたとされ、特に「空」や「無」という概念を中心に人生の苦しみや迷いから解放されるための教えが説かれています。
般若心経は広く信仰されており、手軽に覚えやすいことから多くの仏教徒によって唱えられ、また仏像や仏具に刻まれています。
大悲呪(だいひしゅう)
密教の経典の一つで、主に観音菩薩の教えをまとめたものです。正式名称は「観音三昧耶心大印陀羅尼」といい、観音菩薩の慈悲と智慧を引き出すための呪文として広く信仰されています。
その効果は、次のように多岐にわたり、密教の修行者たちによって念仏や読誦が行われています。
- 病気や災難の回復
- 願いの成就
- 悪霊や邪気の払い除け
など
観音経(かんのんぎょう)
仏教の経典の一つで、観音菩薩の教えをまとめたものです。正式名称は「観音菩薩普門品」といい、観音菩薩の慈悲と智慧を引き出すための教えが説かれています。
この経典では観音菩薩が生前に行った慈善行や、人々の苦しみを和らげるための方法が説かれ、その結果として人々の救済が約束されています。
観音経は広く信仰されており、観音菩薩のご利益を求めて多くの仏教徒によって読誦されています。
白隠禅師坐禅和讃(はくいんぜんじざぜんわさん)
禅宗の詩文集であり、白隠慧鶴禅師によって書かれたものです。
禅宗の修行者たちが坐禅の間に唱えることが多く、坐禅の励みとなる言葉や、禅に関する教えが含まれています。具体的には、人生の真理や自然の美しさ、禅における境地や修行の方法などが詩や文章で表現されています。
白隠禅師坐禅和讃は禅宗の実践者にとって重要な教典の一つであり、禅の道に精進する人々によって読誦されています。
宗門安心章(しゅうもんあんじんしょう)
浄土真宗の教典の一つで、親鸞聖人によって著された文章です。正式名称は「宗門安心親鸞聖人御文」といい、阿弥陀如来の救いと信仰の大切さが説かれています。
この文章では、人間の罪や苦しみを救い、極楽浄土に導く阿弥陀如来への信仰を説き、その信仰によって安心して生きられることを教えています。
宗門安心章は、浄土真宗の教えの根幹を成す重要な経典であり、浄土真宗の信仰者たちによって読誦されています。
臨済宗の葬儀は禅宗ならではの構成になっている
仏教は宗派が数多く存在し、それによって葬儀の内容や作法・マナーも異なります。
臨済宗は来仏教とも呼ばれる中国禅宗のひとつであり、その内容や流れは禅宗ならではの構成となっています。ただし、同じ臨済宗であっても地域や寺院によって違いがあることも決して珍しいことではありません。
故人を見送る大切な儀式であるお葬式なので、少しでも不安や疑問があれば葬儀社や寺院に相談してみるのも方法のひとつです。
問い合わせること自体は無料でできるため、しっかりと準備をして執り行うようにしましょう。